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言葉のパワーを感じられる作品「父と暮せば」

2024年08月05日(月)

 

言わずと知れた井上ひさしの戯曲を黒木和夫監督が映画化。広島の原爆投下から3年が経過した夏のできごとです。

主人公の美津江(宮沢りえ)は、原爆で友人や父親を失い一人生き残ったことを後ろめたく思っています。と同時に、原爆投下時の遺物を回収している青年(浅野忠信)と出会い、ひそかな恋心を抱いています。そんな彼女は「うちは幸せになってはいけんのじゃ」と「幸せになりたい」という二つの気持ちのせめぎあいを背負っています。そんな娘が心配で、死んでも死にきれない父親(原田芳雄)が幽霊として現れます。父は「恋の応援団長」を自認しています。

井上ひさしの真骨頂は言葉へのこだわりです。この作品も二人がその日のできごとを広島弁でやり取りしますが、その言葉が実に美しく生き生きとしています。8月6日の朝、美津江が体験したできごとが語られます。友人の母親から、「うちの子じゃのうて、あんたが生きとるんはなんでですか」という言葉を投げかけられたこと、そして父が建物の下敷きになったが助け出せなかったことに話が及んだ時、「わしの分まで生きてちょんだいよ!お前はわしに生かされとるんじゃ!お前の図書館もそれを伝えるためにあるのと違うか?そっがいにアホたれやったら、他に代わりを出してくれや!わしの孫じゃ!ひ孫じゃ!」と必死に訴えます。美津江の頑なさがようやく溶け、悲しみを乗り越えて未来に目を向けて生きていくのでした。言葉の力があふれた作品です。