日々の大切さを教わった作品「あん」
2024年08月05日(月)
徳江(樹木希林)はどら焼きの粒あんを作る仕事がしたくて桜並木の片隅にある「どら春」の店長にお願いします。店長(永瀬正敏)は「案外きつい仕事なんです」と取り合いません。再び徳江はやって来てあんを置いていきます。そのあんのおいしいこと、店長は徳江に来てもらうことにします。
徳江のあん作りはユニークです。朝の4時から仕込み、「小豆がせっかく畑から来てくれたんだから」「いきなり煮たら失礼でしょ」「おもてなしだから」「湯気の香りが変わってきた」と実にやさしく、丁寧にそして大事に扱うのです。そしてでき上がりを食べた店長が「初めて丸ごとどら焼きを食べました」と徳江に白状してしまうほどでした。あん作りの場面では音楽は無く、小豆が洗われたり煮込まれたりする音が、見る者には小豆の言葉のように聞こえてきます。
行列ができる店になりましたが、徳江の指が曲がっていて不自由なことで「ライ病患者ではないのか」という噂が立ち、客足はあっという間に引いてしまいます。徳江は風の知らせで店長に手紙を書き、店長は徳江のいる療養所を訪ねます。2回目の訪問時に徳江は亡くなっていて、カセットテープに彼女の声が残っていました。「私たちはこの世を見るために、聞くために生まれてきました。だとすれば何かになれなくても私たちには生きる意味があるのよ」と。人生の大半を隔離され外に出ることもかなわず過ごしてきた徳江の言葉を聞きながら、一日一日を大事に丁寧に生きようと思いました。